『なかったことにしていただけ、かもしれない』
「この歳で、今さらそんな話をするなんて」と笑われそうだけど、そんなに笑うほどのことかしら。
先週、学生時代の友人と飲んだ帰り、なりゆきで同じホテルに泊まった。なんてことのない昔なじみ。髪が薄くなったとか、お腹が出たとか、そんな話で笑ってるうちに、なんとなく、そういう空気になった。
正直に言うと、少しお酒も入ってたし、「まあ、たまにはいいかな」と思った。だって、ここ10年、誰かと触れ合うなんてこと、ほとんどなかったから。
そして――意外だった。
気まずさも、自己嫌悪もなくて、むしろ笑ってしまった。「あれ? こんなに悪くないものだったっけ」って。
快感というより、「ああ、私ってまだ“女”だったんだ」と思い出した感じ。ほこりをかぶってた感覚が、急に明るい部屋に引っ張り出されたみたいだった。
私、ずっと性については半分諦めてたのよ。
化粧品は最小限、下着は楽さ重視、恋愛なんて「面倒くさい」が口ぐせで、同僚に紹介されても「いやいや、今さらムリムリ」って笑ってた。
でも、それって本当に“諦め”だったのかな。
もしかして、“なかったことにしてただけ”じゃない?
そこのあなた、私と同じような顔して読んでるかもしれないね。
「恋もセックスも、もう自分とは関係ない」なんて顔。
けどね、ちょっと言わせてもらうと。
それ、あなたが決めたんじゃなくて、「そうしておいた方が楽だから」って、どこかで自分に言い聞かせてない?
誰かにとっての“女”じゃなくてもいいけど、自分にとっての“私”を忘れちゃ、もったいない。
ほんの少し、指先が触れただけで、「生きてるな」って思える瞬間があるのよ。
…と、ここまで書いておいて、私もまた日常に戻る。洗濯機が止まった音がするし、スーパーのタイムセールもある。
でもね、あの日のことを思い出すと、ふと笑っちゃうの。
「案外まだイケるじゃん、私」って。
だから、あなたも試してみたら?
ほんのちょっと、心のチャックを下ろすだけで、世界って案外まだ温かいから。

